鉄道トレンドに関する研究や調査を行う機関「鉄道トレンド総研」は、302人の男女を対象に「リニア工事問題」について調査をしました。静岡県内でのリニア工事が認められず、開業時期が遅れている問題で、歩み寄るべきはJR東海なのか、静岡県なのか聞きました。
調査概要
調査対象者 :全国/男女/10~70代
調査期間 :2023年7月23日~24日
サンプル数 :302人
調査方法 :インターネット調査
TOPICS
- 歩み寄るべきは「静岡県」と回答した人が42.1%。「JR東海」が11.3%、「わからない」が46.6%という結果になった。
- 「国家プロジェクトとしての命運がかかっている」などの理由で静岡県が歩み寄るべきとする人や、環境への影響を懸念する静岡県の主張は「むしろ正当である」とする人など、さまざまな意見が集まった。
- コメントでは、静岡県知事をキーワードに挙げるものが複数あった。いずれもネガティブな内容だった。
歩み寄るべきは「静岡県」が42.1%
2027年開業予定であったJR東海のリニア中央新幹線プロジェクトが遅れています。大きな原因として、環境への影響を懸念する静岡県が工事を認めていないことがあるようです。両者は議論を進めていますが、話し合いは平行線を辿っています。そこで全国の男女302人に「リニア工事問題で、歩み寄るべきなのは?」という質問をしました。
歩み寄るべきは「JR東海」が11.3%、「静岡県」が42.1%、「わからない」が46.6%という結果に。半数近い人が「静岡県が歩み寄るべきだ」という意見を持っていると判明しました。それぞれの理由は以下の通りです。
「静岡県側は協力すべき」「国家プロジェクトとしての命運がかかっている」などの声
まずは、半数近くを占めた「静岡県が歩み寄るべき」という人のコメントを紹介します。
「国の為の大きな事業だから、静岡県側は協力すべき」(愛知県/男性/30代)
「静岡県が認めたくない理由もわかるが、リニア中央新幹線の開通は全国民にとって利便性が飛躍的にアップするので、長期的に見ても静岡県が歩み寄るべき」(兵庫県/男性/40代)
「リニアは静岡県やJR東海だけのものではない。日本全体に関わる物事である。JR東海側が譲ったというニュースは何度か見たが、静岡側(特に知事)が譲っているのをみたことがなく、口だけのように見えている」(東京都/男性/20代)
「静岡県のみの好不都合という狭い視野で受け止めるのではなく、国家プロジェクトとしての命運がかかっていることを前提に考えるべきだと思う」(愛知県/女性/40代)
一方で「JRの勝手な皮算用」「静岡県の主張はむしろ正当」という声も
続いて、少数派である「JR東海が歩み寄るべき」という人のコメントを紹介します。
「JR東海が『静岡県は当然工事に協力してくれるはずだ』との勝手な皮算用で工事を始めたフシがある。静岡県は何の利益も得られないのだから、工事を認めないという言い分にはそれなりの妥当性はある」(長崎県/男性/40代)
「静岡県の判断や姿勢は、自然保護や住民の平穏な生活を一番に考えてのものだと思う。JR東海側が静岡県の要求を出来るだけ受け入れるべきだ」(東京都/女性/50代)
「水資源や生態系への影響を考えた上で工事を認めていない、という静岡県の主張は仕方ない(むしろ正当)だと思う」(北海道/女性/30代)
渦中の静岡県民の声も割れている
当の静岡県民はどう思っているのでしょうか。コメントを紹介します。
「どう考えても、早く工事を進めるべきです。どんどん開通が遅れてしまって、何もいいことはない」(静岡県/男性/30代/静岡県が歩み寄るべきと回答)
「リニアの工事問題は、生活水に直結しているので、慎重になって当然です。静岡県がJR東海に提案している、新幹線の静岡空港駅案なども、柔軟に対応するべきだと思います。リニアについては、今のところ、静岡県にメリットは、全くありません」(静岡県/女性/50代/JR東海が歩み寄るべきと回答)
「静岡県に住んでいますが、住民の反対は強いです。そんな中で無理に開業してはいけないと思います」(静岡県/女性/30代/わからないと回答)
ネガティブなコメントで「静岡県知事」が多く名指しされる
コメントには川勝平太静岡県知事をキーワードをあげた人も多くいました。その多くがネガティブな内容でした。
「静岡県知事はただ難癖をつけているだけに過ぎない」(山形県/男性/40代)
「川勝知事の主張がすこし乱暴に感じます」(京都府/女性/30代)
「川勝知事のやり方はフェアではなく、何の目的もない時間稼ぎのようにも見える。JR東海幹部との話し合いも、内容に新しいものがないのに、ただ目立ちたがりの行動のように見えて仕方がない。なんで静岡県民はあのような人を知事に再選させたのか疑問だ」(千葉県/男性/60代)
「静岡県知事の独断と偏見で判断されたことにより、国益が損なわれている。少なくとも、私の知人には知事の判断を支持している人はいない」(愛知県/男性/50代)
「わからない」とした人にも一家言あり
「わからない」と回答した人は、「この問題自体知らない」とした人もいれば、どちらか選びがたいという人も複数いました。
「自然破壊の影響や大規模プロジェクトを掲げた事業、どちらの言い分もわかる。議論を重ねた上で双方が納得し、進むのか退くのかしたほうがよい」(群馬県/男性/50代)
「どちらかではなく、どちらも歩み寄るべきだと思う」(愛媛県/男性/30代)
「そもそも超電動リニアを作る必要があるのか疑問に思うため。他のことにお金を使った方が良いと思えるため」(福島県/男性/30代)
以上のように、さまざまなコメントが寄せられました。
鉄道トレンド総研所長・東香名子の分析コメント
JR東海が進める「リニア中央新幹線」プロジェクト。完成すれば、東京(品川)~名古屋間を最速40分、品川~大阪間を最速67分で結ぶことになっています。経済効果も大きく、大阪までの延伸により、少なくとも累計で16.3兆円(年平均1兆円規模)の経済効果が生まれるとされています。
国民の期待がかかるリニアですが、当初2027年の開業予定だったのにもかかわらず、工事が遅れています。JR東海はいまだ開業時期を明言することができていません。大きな原因のひとつに、静岡県が県内の工事を認めていないことがあります。次の3つの懸念があるからです。
①工事中に静岡県を流れる大井川の水が流出すること、②その地方特有の生態系への影響、③大量発生する残土。静岡県はこの3つの懸念を示し、工事着工を認めていません。これに対してはJR東海が真摯に対応しているものの、水の次は生態系、生態系の次は土など、ゴールポストを動かし続け「リニア工事を妨害したいだけなのでは」と静岡県の川勝平太知事の姿勢を問題視する人も多くあります。それが全国メディアでも徐々に取り上げられるようになりました。
これを受けて行った今回の調査。そもそもこの問題自体を知らない人や静観する人など「わからない」と回答した人が46.6%いながらも、「静岡県が歩み寄るべき」とした人は42.1%半数近くにのぼりました。もちろん静岡県民の気持ちを無視して工事を進めるべきではありません。静岡県の地元メディアでは「知事擁護派」「リニア推進派」と報道の方向性が二分されているようで、当の県民も混乱のさなかにあるのかもしれません。
今年4月にはJR東海に丹羽俊介新社長が就任。会見では「中央新幹線計画について、従来の方針と変えることなく、工事の安全、環境の保全、地域との連携を大切にしながら、まずは名古屋までの早期開業を目指して全力で取り組んでまいります」と述べました。日本の未来を担うこのプロジェクト、早期に進展することを願ってやみません。